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前章からのつづきになります。

→ 機能不全家族に役立つ読本 その1


アンネは日記の中で、こんなふうに綴っている箇所があります。

「空、雲、月、星などを眺めると、心が静まり、辛抱強くなるのは、わたしの想像だけではありません。

それは強壮剤よりも効き目のある薬です。

母なる自然はわたしを謙虚にし、どんな苦しみにも勇敢に耐えるようにしてくれます。」


また、「花売り娘」という創作童話の中では、こんな一節が登場します。

「クリスタは両手を頭の下に当てて、草の上に寝ころび、大きな目を開けて、果てしのない青い空をながめます。

これが彼女にとって一番幸福な時です。

こんなにはげしい労働をする小さな花売り娘は、さぞ不満をもっているのだろうと考える必要はありません。

彼女は決して不満をもったことはありません。

毎日三十分間、こうして自由になる時間のあるかぎり、将来も不満はもたないでしょう。

野原で、草や花の中で、天を仰いで寝そべっている時、クリスタは幸福です。

そこには人もおらず、マーケットもなく、疲れも忘れてしまいます。

クリスタは毎日こういう時間 ― 神さまと自然の美しさとだけいっしょにいる自由な時間 ― をもてますようにと考え、夢見るだけです。」


アンネは、苦しい隠れ家での生活や、窮屈な人間関係の中で、自然と一体となり、崇高な気持ちになれるひと時に、救いを見出していたのでしょう。

これは、いつの時代も、どんなに豊かになった世の中においても、変わらない人間の営みなのではないでしょうか。


作者であるアンネは、ナチスによって収容所に送られ、家族ともバラバラになり、まだこれからという短い生涯を終えなければなりませんでした。

彼女がもし生きていたら、逆境の中でどう考え、どう生き抜いていけばいいのかを、語りつづけてくれたことでしょう。

そのことが、とても残念です。


私たちの多くは、隠れ家や収容所で過ごさなければならないわけではありません。

それでも、私たちなりに苦しみを抱えながらアンネに共感し、アンネに倣ってより良い生き方を探していくことは、まだまだ可能といえるのではないでしょうか。

私たちは、つい人と比較して劣等感を抱いてしまったり、周囲の人間関係で心が疲れたりイライラしたり、症状が現れることもあります。

そんな時には、このような名作の中の言葉に触れてみるのも、きっと助けになることでしょう。


出典: 「アンネの日記」 文芸春秋 皆藤幸蔵訳